犬も歩けば猫に当たる2

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「俺、こう見えても弁護士でして。持っていたのはたまたまですよ」 「あんた若いのに弁護士先生だったのか!いやぁ、助かったよ!名前は?」 「黒柴 初音(くろしば はつね)です。あなたは?」 「おれか?おれは……」 「名人!大丈夫でしたか?」 相手の名前を尋ねようとすると、改札の前で大きく手を振っている40歳代位のスーツ姿の男性が、焦ったように手を振っている。 「おお、事務長。すまんね、来てもらって」 「そんな事はいいですから!それよりも対局は?出来そうですか?」 「ああ、この若先生が助けてくれて無罪放免よ」 「それはよかった。外に車ありますから急いでください」 「ほいほい。じゃあその内お礼に伺わせてもらうわ。先生」 「あ……」 声を出したのも束の間、あっという間に雑踏に紛れて消えてしまう後ろ姿をぼんやりと見つめる。 (名人……) それと『対局』と言った言葉から、何らかの競技に関する名人なんだろう。 生憎その手の競技には興味がないため、仮に名前を言われたとしてもはっきりわからないのが関の山かもしれないが、いつもなら名前すら聞かない通りすがりの人助けに、名前を聞こうとして、しかも今、名前が聞けなくてちょっと残念に思っている。
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