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犬も歩けば猫に当たる3
【Dog side】
「ここか」
名前を調べればわかる世の中と言うのは時に窮屈だけど、こんな時は便利だなと思う。
多分相手も俺の名前を調べてあの事務所に訪ねて来てくれたんだろう。だけどまさかそのお礼のお礼参りに俺がくるなんて、思ってもみない事かもしれない。
あの、人を茶化して楽しんでいるような笑顔が、逆に驚かされたらどうなんだろう。
そんな子供じみた好奇心のまま、仕事を調節してここまで来てしまう俺も俺だけど、尋ねていなかったら話にならないなと事前にアポイントメントを取れば、電話対応してくれた女性は「今日は娘と1日家にいるつもりのようです」と簡単に答えてくれた。
(和風だなぁ)
住んでいる場所も働いている場所も近未来型のアメリカンスタイルだからか、こうやって純和風の家屋を見るのは何とも新鮮な感じがする。
小学生に上がる前に行った田舎の祖父の家もこんな感じだった気もするが、それよりも遥かに大きくて立派な門構えに、事務の男性が言った『名人』という言葉に信憑性が増す。
(信憑性もなにもネットでちゃんと載っていたから間違いないけど)
印刷した履歴にさっと目を通す。
白臣 蜻蛉 元名人
昭和を代表する囲碁棋士の1人で、現役で活躍中。
今はさすがに第一線のタイトル戦の常連と言う訳にはいかないが、それでも堅牢な守備スタイルを崩すのは厄介な打ち手とされている。
今は名人よりも、孫娘の方が脚光を浴びつつあると書かれている文字と一緒に印刷されている近影では、前に一度見た笑顔が憎めない男性ではなく、1匹の獣のような鋭さを持ったものであるのが、白黒印刷からもはっきり見て取れる。
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