1320人が本棚に入れています
本棚に追加
綺麗だ、素直にそう思った。
今まで目の色の違う人達とはたくさん出会ってきたし、勿論日本人の瞳も見慣れている。
感情を表情と同じ位顕著に表す瞳には、目の前の珍客を物珍しそうに見る他には何の感情も映らない。
いつも俺に向けられてきた、好奇に混じる羨望や嫉妬や興味、それと粘度の濃い恋愛の気持ちなど、一切映っていなかった。
夜露に濡れたような黒い髪は肩に軽く触れる位で、風に攫われてふわりと揺れる。
「……っ」
黒猫のようだ。いや、見た目は黒猫かもしれないが、彼女はこの家の守り神(猫神)かもしれない。
「蛍(けい)ちゃーん、見つかった?」
「……探させる位なら最初から投げんな」
ふいっと視線を外されたと思えば、目の前の印象的な子は開け放たれている縁側に注がれている。
少し冷たいが耳触りのいい声が風に溶けて消え、つられるように見れば、そこにはあの時あった男性が目を丸くしてこちらを見てる。
「あんた……」
「……」
沈黙から始まるつもりはなかった。
いつものように当たり障りのない笑顔を1つして、名前を名乗って、それからここに来た経緯を話して。最後に「驚きました?」と言えばこの一連のいたずらは成功だった。はずなのに。
目が離せなかった。
最初のコメントを投稿しよう!