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『先生、今日はこのまま直帰ですか?』
「ごめんごめん、戻るよ」
予定としては午後にちらりとこちらに寄って、好奇心を満足させたら事務所に戻って仕事をすると伝えていたからか、いつになっても連絡を寄越さない俺に、電話越しから色んな声と言語が重なる。
『また面倒な厄介事に絡まれたか?』
『ハツネも懲りないね』
「普通にこの前俺を訪ねてくれたクライアントに会ってただけだよ」
『ハツネ、クライアントに美人がいたか?』
『マジかよ、100ドル損した!』
『お前ら好き勝手に言うんじゃないの』
「あの……すみません」
英語の煽り文句に笑って英語で返せば、控えめな日本語が聞こえる。
振り返れば、門近くまで外に出て話していた俺の後ろに、この家の家政婦らしき年配の女性が声をかけてくれる。
「外で食べてから戻るから。じゃあ後で」
「支度が出来ましたけど、お取込み中ですか?」
「今終わりました。大丈夫です」
女性とともに他愛もない話をしながら玄関先まで戻れば、道を外れた女性が、何故かすっかり暗くなった無人の縁側に向かって話しかけ始める。
「?」
「蛍ちゃん、ご飯の支度が出来てますよ」
「……ん」
(いたんだ!?)
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