犬も歩けば猫に当たる3

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何に向かって話しているんだろうと疑問に思っていたのに、暗闇からのっそりと小さい影が現れると、影の主がわかっていてもびっくりしてしまう。 (名人が言っていた言葉は嘘じゃなかったのか) 『納得するまで動かねぇから』 とは言っても結構な時間経っていると思ったが、よほど1つの事に夢中になれるタイプなんだろうか。あれから名人とすっかり話し込んでしまったし、立派な庭を紹介してもらった時間もあったのに。 (不思議な子だな) 自然に横に並びながら玄関をくぐると、外との明るさに驚いたのか瞳がひゅっと光を閉じ込める。 「……綺麗……」 「……?」 (やべ、口に出したか) 「あ、ね、猫みたいだね君の瞳」 何か言わないと不審者扱いされると見繕うように探した言葉だったが、これはこれで不審者扱いされるかもしれない。 案の定相手が少し不思議そうに眉間に皺を寄せたが、すぐに視線が外される。 その事にほっとするのが正常な反応なんだろう。だけど残念だと思う気持ちが強く出てしまって思わず苦笑する。 「今まであそこにいたの?」 「うん」 「納得した?」 「……次は負けない」 静かに決意を新たにし、前を見つめる瞳は最初と変わらずネオンを散りばめているかのようにキラキラと輝いている。 その先に誰を見ているのかは会話からわかりきっているのに、どうしてこうも物寂しさを感じてしまうんだろうか。
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