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知ってる。わかってる。俺だって同じ立場だったらそう答えるもん。
いくら見た目がそこそこ整っていると見えているとは言え、これではただのナンパとしかとられない。
だけどその位しか言葉が見つからなかった。弁護士として普段あれだけ色んな言葉を駆使しているにも関わらず、だ。
「……また君の囲碁を見に行ってもいい?」
今度返ってきた沈黙は判断に迷うところだった。もしかしたら彼女自身も何を言われているのかわからないと思っているのかもしれない。
「今度は名人に勝つんでしょ?俺もちょっと見てみたいし」
君が勝つところ。と続ければ、多少なりとも確信をついてくれたのか、すっと瞳が僅かに動く。
(不思議だ)
名人の瞳も不思議だった。もはや過去形になってしまっているが、最初の好奇心は確かにそれが源泉だったし、今も大人子供のようなあの男性は素直に好感を持っている。
だから何かあったらいつでも呼んでくれと、自ら顧問弁護士のような事を買って出る台詞を言った訳だし、家族の団欒には縁はないが、食事の時間はそれなりに楽しかった。
それでもそれを全て過去形にしてしまうのは、目の前の不思議な女の子の瞳が全てだ。
話せば話す程気になって仕方ない。
俺と同じようで全く違う。
憧れているようで嫉妬している。少し離れたところにいる猫に触れたい好奇心と、犬のように首輪で括られている俺と、猫のような彼女は違うと思う拒絶感と、それでも仲良くなりたいという感情が混じり合い、白黒はっきりさせてくれないくせに、この感情を楽しんでいる自分がいる。
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