犬も歩けば猫に当たる3

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純粋に触れたいと思っている。 「!」 手に掠めた髪の毛の感触はさらりとしていて、まるで絹に触れているようだった。 次の瞬間勢いよく払い除けられて手に衝撃が走る。爪を立てられなかっただけましかもしれない。 「何」 (警戒されちゃったな……) いつもの俺らしくない。警戒されるのは一番得策ではないのは知っているし、仲良くなるにはある程度距離を保って時期とタイミングを計らなければいけないのに。 そう頭では理解しても、ほとんど感情の赴くまま手を伸ばしてしまえば、当然のように一気に警戒心を強めた猫が強い不快感を映す。 それなのにそれすらも印象的で、毛を逆立た猫とは対照的に、俺は興味がこちらを向いた事が嬉しくて尻尾を振り始めている。 「またね、“ミケちゃん”」 「は?」 「しらお“みけ”いだから『ミケ』ちゃん。かわいいでしょ?」 「かわいくない」 みんなと同じであれば、きっと彼女の心にも瞳にも一点の光すら灯さず通り過ぎる存在になるだろう。 誰もが彼女を蛍(けい)と呼ぶならば、何かしらの唯一が欲しい。 この気持ちは子供じみた好奇心の延長なのか、それとも俺がずっと敬遠していた感情だったのか。 タクシーに乗り込み、背を向けられる前にひらりと手を振れば、薄暗闇に瞳がきらりと光って見えた。
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