犬も歩けば猫に当たる

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とにかくそれ位、黒柴先生についての恋愛の話題はご法度とされている。 例えば今ここで私が先生に対してカッコいいと言うとしよう。 多少なりとも自分の実力については自信があって、それを悟られないように笑顔がうまいと言われている私でも、僅かに含まれるミーハー以外のよこしまな感情を浮かべれば、すぐに相手に察知されてしまう。 それだけあの先生は人の感情の動きに敏感だ。 家に行きたい、これ絶対アウト。 終電を逃したので送って欲しい。これは微妙なラインらしい。 途中まで送ってくれる事もあれば、あっさりとフロアの端っこに作られているシャワー、冷蔵庫、テレビ付きの仮眠室で寝てもいいと突っ返されるケースもある。 車に乗せて欲しい。ここもはっきりした事はわからないが、助手席は気が散るからアウトらしい。 そこまで徹底されると、いっそ同性愛者なのかと変な勘繰りを起こしてしまいたくなる。 実際よくここを訪ねてくるのは、中学からの友人と言われているFBIから外部出向中の大物検事である、日野原 甲斐(ひのはら かい)と言う男性を筆頭に男性率が高く、後はクライアントやその付き添い、横の繋がりで来る人達ばかりだ。 結構色んな人と仕事上の付き合いがあるし、社交的で華やかな人なのに、友人の話題はほとんど出てこない。 誰かが先生に「カイと付き合っているのか?」と尋ねた所、あっけらかんと信頼しているだの好きだの出てきたそうだ。 元々がアメリカにいたから表現も直接的になっても無理もない話かもしれないが、たまに訪ねてくる友人と名乗る人達が片手に納まる程しかいないのを見ると、日野原検事と本当にそうなのか、もしくはパーソナルスペースが広そうに見える社交的な外面に反して、実際には一部の限られた人しか入れない程狭いというパターンなのかもしれない。
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