高すぎる空にロケット一つ

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     1  現役の高校生に、履歴書の自己PR欄に何を書くかと問えば、まあ大半はクラブ活動について書くと相場は決まっている。  三年間通して行った、あるいは現在も続けているクラブ活動は、それだけで一種のステータスである。  例えば運動部であれば『活動を通して根気と忍耐力を養いました』とでも、それが野球であれば『チームワークの大切さを学びました』とか何とか。  学生時代に帰宅部だった者は、委員会活動という逃げ道もある。  風紀委員に所属した事により規律の大切さを学び、美化委員に所属した事により整理整頓の美徳を学び、保険委員に所属した事により奉仕精神の真髄を学びました。とまあ言うまでもなく、学校とは学びの場である。  目の前には履歴書。多分に漏れず、自己PRの欄にはクラブ活動で埋めようと思っているのだが、しかし関連付けが難しい。そうして腕を組んでいると、後ろから声を掛けられる。 「杵島、それって履歴書?」  さっきまで部室の隅でのんびりと編み物をしていた男――吉井幸太郎が、いつの間にか背後から覗き込むようにして首を傾げた。 「吉井、いいところに来た。俺達の部活とラーメン屋、何か関連性はないか?」  吉井は一瞬だけ奇妙な表情を浮かべ、しかし律儀に考える素振りを見せた。 「……ないんじゃない?」  ここで『何故?』とは問わずに答えてくれるのが、この男の良い所である。ともあれ分かりきった返答に、再び腕を組む。その様子を見て、吉井は小さく首を傾げる。 「今度はラーメン屋? 旅館はどうしたの?」 「そろそろお役御免なのは目に見えてるからな」  ふと窓の外を見やれば、ちょうど一陣の風が通り過ぎる。今は9月。もう夏は終わった。季節は移ろい、海辺の町の目玉観光事業も終わりというわけである。そして繁忙期は終われば、使い勝手が悪い学生バイトには肩叩きことリストラが待っている。 「旅館のときは何て書いたの?」  言われて、さてどうだったかと思い出す。 「確か…そう、部活動の副部長として皆をまとめるようフォロー役として周囲に積極的に働きかけ、とか何とか書いたような」  吉井が、若干じと目でこちらを見る。 「嘘つき」
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