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「おめでとうございます!見事、特賞に当たりました」
パンパカパーン!
一面真っ白の世界で、気の抜けるような音が男の耳に届いた。
「あれ・・・どこだ、ここ?」
男―――沢辺誠一は困惑していた。
気がついたら何故か知らないところにいた。
全く身に覚えがない。
「酔っ払ったか、それともついに年でボケたか」
とにかく、一から思い出してみよう。
歳は71歳、性別は男で独身だ。
職業は飲食店経営。
さっきまで自分の店で準備をしていたはずだ。
そこまでは、しっかり覚えている。
「おめでとうございま・・・て聞いてますかー?」
30歳の頃から続けている飲食店で、地域の人々に親しまれていた。
たしか、今日は近所の魚屋から良い秋刀魚を仕入れたんだよな。
「あのー、すみません。オーイ」
最近言うことを聞かなくなった体にムチを打ちながらも、一人で切り盛りしていた。
常連のお客さんに心配されてたっけ。
「グスッ・・・、どうせ私は影が薄い地味女ですよ」
それで今日もいつものように準備をしていて、それで、それで・・・・・・思い出せない。
そこから先の記憶が頭からすっぽりと抜け落ちている。
とりあえず手がかりはないかと、誠一は周囲に意識を向けた。
まったくもって見覚えのない場所。
水平線が広がり、端が見えず、ここが限りないほど広大な場所である、という事は分かる。
自分が立っている地面には草一本どころか、汚れひとつ無い真っ白だ。
上を仰いでも、これまた白一色。
青ではないという事は、此処は外ではなく室内なのか?
己の周りには現実離れした空間と体育座りでさめざめと泣いている女だけ
―――とても殺風景かつシュールだ。
その光景を見て、今更ながら誠一はある疑問を口にした。
「そういえば、あんた誰?」
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