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もう何がなんだかわからないままに突っ走る。とにかくひたすら突っ走る。今ならそこらの陸上選手にも負けない速さで突っ走る。
夏氷や姉ちゃんだけでなく、優理先輩まで……一体全体どうなってるんだ!?
………いや、きっとこれはドッキリだ。夏氷と姉ちゃんと優理先輩の罠だ。俺の記憶にないのがその証拠だ!そうに違いない!ていうかそうでないとマジでヤバい!!
「………あっ」
「ふ、冬火…!」
偶然ばったりとあったのは肩にかからないくらいのショートの青い髪の少女、結田 冬火(ゆいだふゆか)だった。
冬火は俺の顔を見るや回れ右して歩き出してしまった。…それはまるで、俺を避けているような、俺から逃げるような風に見えた。
「ちょ、ふ、冬火…?」
「やめて」
冷たい言葉に息が喉元で詰まった。俺に背を向けたまま、冬火は声だけを俺に向ける。
「……わかってる。あんただけが悪いんじゃないって事は」
「………おい、なんの話だよ…?」
「惚けなくてもいいから。…あれは、雰囲気に流されちゃっただけで、私にも責任はあるから……」
「……ふ、冬火…さん…?」
「大丈夫」
そう言って、冬火は少しだけ顔をこちらに向けた。
横顔は赤く、目は潤み、口元に手を添えながら、小さな声でこう言った。
「成り行きだったけど、それでも私は……あの夜の事、忘れないから」
「………………………………………………………………………………………………………………………………………、あの、夜…」
「………優しくしてくれて、ありがと。……それじゃ」
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