プロローグ

11/11
76人が本棚に入れています
本棚に追加
/240ページ
  実際に行動している事で説得力が出る。それだけなら別に見せかけでもいい。 しかし、本当に見せかけだけで問題が起きていた場合は話が別だ。問題を放置したまま見えない刃が振り下ろされる瞬間を待つことになる。 知っていれば未然に防げたかも知れない未来を手放しておいて、後になって不運だと嘆くのも馬鹿らしい。 「一応、警戒しておこう」 自転車を降りて、路肩に止める。月日さんも俺に傚う。 よほど視力が悪くなければ、向こうも俺達の姿が見えているだろう。変わった様子はない。 自転車よりもやや早い速度。徐々に接近してくると、その人物が跨っている乗り物に目が行った。 「あれって、原付バイクだよな。セントラルはガソリンまで生産しているのか……?」 「ど、どうでしょう? 生産されていても不思議ではないですが、ガソリンのような取り扱いに配慮の求められる物は配給されないと思います。音も静かですし、電気バイクではないでしょうか?」 バイクが俺達の前で停止する。運転手は原付なのにフルフェイスのヘルメットをしていた。まぁ、そっちの方が安全だからな。 線の細い身体つき。学校の制服らしいスカートを履いていた時点で性別は固まっていた。敵意はなさそうだったけど、警戒は解かない。 そんな俺を嘲笑うみたいに、相手は隙だらけの背中を曝しながらバイクのスタンドを立てて、ヘルメットを脱ぐ。その下には見覚えのある顔があった。 男性が苦手だと言っていたそいつは、俺との確執を無視して、俺の元に駆け寄ってくる。 「っ」 一瞬、俺は本気で迎撃を試みようと思ったけど、その顔があまりにも必死だったから怯んだ。その空白は、そいつ――雨音九葉<アマネ ココノハ>が俺に肉薄するまでに十分な時間だった。 「光火くん……っ」 限界距離の3メートルをぶっちぎって、手を掴まれる。俺、石化。金の針、持ってきてたっけな。 「――私達の街が、奪われちゃった」
/240ページ

最初のコメントを投稿しよう!