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「侵攻に際して、リベリオンが何かアクションをした様子はなかった。それは、黒幕が神託会側に存在する示唆になる」 「目的がハッキリしてないんすから、それだけじゃコッチに黒幕が居る理由にはならないんじゃないっすかね」 「到達点が不明瞭でも、引き起こされた事態は一目瞭然だろ。その効果が何処に及ぶか、手当たり次第に思考実験するだけだ」 俺が日本都市<ノア>に居着いて半年強。同じ場所に根を張っているとされているリベリオンは、住民に対して不利益を与えるどころか、その存在を住民に認識させる事すらもしなかった。 狂乱者脱走事件が発生した夜には騒動の沈着に陰ながら支援していたように思う。けれど、徹底して俺達にその存在を伏せた。 よって、リベリオンの名を住民たちに知らしめる事になった今回の騒動は、意に反するものだと推測できる。 「復讐ほど育てやすい争いの火種はない。黒幕が日本都市と神託会を衝突させようとしているのは、状況が示してる」 「そうっすね。神子は組織の要所であり、神也さんの右腕でもあった神子を失ったっすから。人情云々よりも、救いの象徴たる神子の神秘を穢された神託会は――神也さんは、組織の面目を保つためにも何もしない訳にはいかなかった」 「黒幕の思い通りにな。そこまでの舞台を整えられる時点で、既に容疑者はかなり絞られる。神子か、それに準ずる人物」 「まぁ、組織の全貌を把握できる立場でなければ水面下での操作なんて夢のまた夢っすからね」 「用意された争いの場……そこで起こる事で、まず思い浮かぶのは人死にだ」 お互いの命を守る為に相手の時間を食らい合う。誘発した争いが、復讐が復讐を呼び、何方かが滅びるまでそれは続く。 決着すれば、功績に応じて立場の向上が見込めるかも知れない。でも、その線は捨てる。神子は神託会でも神也に次ぐ最高位の地位だ。 不思議能力があれば神子になれる。なければ神子にはなれない。それだけだ。 既得権益を活用しなければ力のある流言は使えない。それぞれの立場の最も高い場所に席のある連中にとって、権限の獲得は盤面を構築する理由にならない。 ただ、一つの椅子を除いては。
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