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  あの確執は健在だったようだ。お互い干渉しないという訳にも行かず片手を挙げて軽く挨拶をすると、雨音さんはハッとして俺の前まで歩いてきた。俺達の適性距離でぴたりと止まる。 「光火くん……あの、こんばんは」 「ああ、うん。こんばんは」 たったそれだけで会話が途切れて、すかさず沈黙が挿入された。それで終わりなら終わりでいいのに、雨音さんは立ち去ろうとせずに俯き加減で口元を動かしている。 言葉に詰まっているらしい。困っている様は見ていて嗜虐心が刺激されなくもないけど、団長さんも訝しげに此方を伺ってきてる。 言いたいことがあるなら、言ってくれとぶっきらぼうに言いたい。でも、心身ともに疲弊しているであろう相手に、そんな無作法な言葉を掛けるほど俺も鬼じゃなかった。 「お疲れ様。西の連中の様子はどうだ? って、まだ落ち着くには早いよな」 「え? あ、うん。やっぱりいきなりの事だったから、みんな不安にしてる、かな」 「これからの事もあるしな」 「あ、でも、みんな東側の対応には凄く感謝してるの。何しろ、受け入れて貰えない可能性もあったから……その点は、私も含めてひと安心でした」 雨音さんはそう言って、団長さんにしたように俺にも深く頭を下げる。 「ありがとう、光火くん」 「やめてくれ。俺は話を持って帰っただけだから、別にお礼を言われるような事はしてない」 「ううん」 首を横に振って、雨音さんは否定する。 「最初に安心をくれたのは光火くんだから」 俺は、その向けられた笑顔を純粋に受け取ることは出来なかった。多分、団長さんも似たような感慨を抱いたに違いない。 「見てくれ、鳥肌が立った」 「ひどい! 真面目に言ったのに、なんでそういう態度を取るかなぁ!」 そうして、俺は居た堪れない気持ちを誤魔化した。後ろめたいことがあると、真正面からの感謝は痛い。 西からの避難民を無条件に受け入れる。その決定に対して、自警団ですら一枚岩にはなれていない。 次に衝撃が与えられるような事があれば、その綻びはひび割れて、毒を放出する。 そうならないように、俺に出来る事を探してみようと思う。
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