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「その『トオル』という人物とは今後接触する機会はありそうか?」
「ある、と思います。また動きがあったら報告にくると言っていました」
「なるほど。そうなると人相の方も知っておいた方が良さそうだ」
それから団長さんが幾つか細部を詰めていく質問をしていき、煮詰まって来たかという頃に「君からは何かないか?」と水を向けられた。
「今朝、一瞬だけどラジオ放送をしてたよな? あれは何だったんだ?」
「あ、聞いてくれてたんだ……此方の事情を東側に伝えようと思ったの。あんまり早く放送しちゃうと神託会側にも伝わっちゃうからってギリギリにしてみたんだけど、裏目に出ちゃった」
理由を聞いて、腑に落ちた。それだけで、特に収穫はなし。
「あらかたの情報の共有はできたか。それでは、これからの話をしていこう」
そう団長さんが切り出すと、その横で沈黙を守っていた副団長さんにバトンが渡される。
「差し当たりの生活についてですが、学校の敷地内であれば皆さんの自由にして頂いて構いません。ただし校外を出歩く場合は、申し訳ありませんが此方に申請をお願いします」
「……解りました」
西陣営は雨音さんを含めて何かを言いたげにしていたけど、その口からそれ以外の言葉が出ることは無かった。
「西が襲撃された理由が『神託会』なる組織の活動理念によるものであるなら、東側も当然その対象となる事が危惧されます。周辺の警邏の強化が急務になりますが、自警団の人員だけでは心もとない為、西の方々の中からも有志を募って頂きたい」
「はい。具体的に何名ほどでしょう?」
「多ければ多いほど。ただ、数を優先するのではなく、善良な精神の持ち主が望ましいです」
「皆なら大丈夫です」
ぴしゃりと言い切る。雨音さんは自信があるようだけど、俺達からすれば全く根拠がないから困る。
かと言って、苦言を呈して東西に亀裂を生じさせるわけにもいかない。副団長さんはポーカーフェイスを保ったまま続けた。
団長さんはこれからの話と前置きしていたけど、その内容は東側から西側への一方的な要求が大部分をを占めていた。
外敵への対策は後日有志が一同に会する場で話しましょうと言うことで、その日は解散となる。
自警団組は残務があると詰所に残り、俺は雨音さん達と一緒にその場を辞した。
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