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  一定の距離を置いて前方を歩く西組が何度も振り向いて俺の方を頻りに気にしている。 俺に聞こえない声量で言葉を交わしたかと思うと、足を止めて雨音さんが俺の所にやってきた。 「光火くん。私達に何か話でもあるの?」 「はい? いや、ないけど」 表情の微細な変化も見逃さないとばかりに、じーっと見つめられる。 「それじゃあ……私達の監視を仰せ付かったりしてるの、かな」 「その突拍子もない質問は何処から来たんだ」 「話もないのに校舎に向かう私達に着いてくる理由が、それ以外に思い当たらなくて」 普通に、校舎に用があるんだとは思わなかったんだろうか。けど、あの話の後だもんな。そう疑われても仕方のない部分ではあるか。 「ちょっと部室に寄るだけだ。大体な、監視をするなら見つからないようにこっそりやる。わざわざ見張ってますアピールをして脅しつけるような事をしたら、東西の間に決定的な亀裂が生じるのは目に見えてるし」 そもそも、俺は自警団のメンバーですらないんだけども。 「そっ、そっか。そうだよね。いきなり変な質問しちゃってごめんね……? はは……少し変になってるかも、私」 雨音さんの顔には疲労が色濃く滲んでいる。聞いた話の通りなら、雨音さんは潜入捜査したりだとかで昨日から不眠不休で動きっぱなしの筈だ。 しかも緊張状態を維持しっぱなし。いつ糸が切れてもおかしくはない。 第二種人類がどうなろうと知ったこっちゃない。ないが、ここで西の支柱になっている人物に何かあれば大事になる。 さて、どうしようか。考えてみるけど、気休めの言葉しか浮かばない。 だったら、そうだな。前向きな話でもしてみるか。そっちの方が気が休まりそうだ。 「さっきの有志を募るって件、考えがあったりするか?」 「一応、このあと皆に聞いてみるつもりだよ。それがどうしたの?」 「具体的な案があるわけじゃないなら、全員で志願しなさい」 「全員で……それは、難しいよ。まだ混乱から抜けきれてない子だって居るのに。人手が欲しいんだよね? 動ける人だけじゃ駄目なの?」 「いいから、全員で志願しなさい。それが結果的に俺の為になる」 俺は随分と勝手な事を言っているように見えるだろう。雨音さんの後ろで聞き耳を立てているお仲間さんは不快感が隠しきれていない。 「それに、西側の為にもなるかも知れない」 人手が欲しいだなんて、俺は一言も言ってない。
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