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  もし俺が東の利益の為に働きかけているのだと思っているのなら、それは見当外れも甚だしい。括りなんて俺と隣人と他人だけで十分だ。 「仮でも自警団に所属すれば、校外を歩き放題だ。仕事って形で、それなりの制限はあるだろうけど」 「それは、そうだけど。当然、動けない人にも指示が来るよね?」 「自警団からの要請を思い出してみろ。『警邏の強化』の為の人員を募りたいって言ってただろ。100人が一気に見回りをするのか? おそらく、ローテーションになる筈だ。無理なら、非番の中から余力のある代役を立てれば良い」 「な……るほど。でも、いいのかな。それって、東側を謀ってる気がするよ」 「悪事を働くつもりなら遠慮願いたいけどな。そうじゃないだろ。警備が充実して、より早く危機を察知できるようになるなら、それに越した事はない」 他にもメリットはある。避難民の受け入れに難色を示した日和見思考の連中に現実味のある危機感を抱かせる事ができる。 デメリットがあるとすれば、西側が人数を武器に自警団の頭を抑える可能性だけど、誰がトップに立とうが俺はどちらでも構わない。 「有事の際は否が応でも動かざるをえないんだからな。だったら、やることに変わりない」 「そう、だね。うん……そうだよね」 「こんな簡単な抜け穴にも気づかなかったのか」 心身の疲労は思考を鈍らせる。疲れてるんだから、有志の話は他のお仲間に託して休みなさいと続けようと思ったけど、やめた。そこら辺のフォローはそれこそ身内の仕事だ。 「む。私は光火くんと違って捻くれてないからね」 人が細やかな気遣いをしてやってるってのに、この言い草か。 「憎まれ口を叩ける程度には元気なんだな。それなら、こんな所で無駄口を叩いてないで、残務の一つでも片付けろよ」 「君に言われなくたって、そうするつもりだよ」 そう言って雨音さんはひらりと身を翻して、見守っていた二人の元に早足で戻っていく。 合流を果たすと、雨音さんは一度だけちらりと振り返って、小さく何かを呟いた。 「あ……とう」 その声は、風に掻き消されて聞き取れなかった。 「もしかしたら、俺はこの方法を勧める為にあの席に呼ばれたのかね」 盲点というには見え透いていたし。自警団の一員だったら教えられない事でもあるし。 そんな事を、照れ隠しに思ったりした。
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