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眩いばかりの光は収まった。けれども、静寂が帰ってくるのはもう少し先になりそうだ。
部屋の外からは、焦って状況を確かめようとする者達の賑いが聞こえる。俺も仲間に加わりたい所だけど、雑踏が勢力を増すだけか。
「不要な時に動いて、必要な時に動けないのも馬鹿らしいよな」
とりあえず、隣部屋の住人の安否だけ確認して寝直す事にしよう。
部屋を出る。下の階が特に騒がしいのは、食糧を確保しようとしている連中が施設に押し寄せているからだろうか?
「セントラルの機能が失われたのだとしても、そんなの何の対策にもならないのに」
生きたい一心での備えが反対側に作用する瞬間が容易に想像できた。
一人ごちて、隣部屋の呼び鈴を鳴らす。毎度の事ながら返事が無かった為、合鍵を使用して中に入った。
試しに部屋の灯りのスイッチを押した。まもなく点灯。
「問題なく電気は通って――ん?」
視界に入ってきた光景に愕然とする。
「み、ミツヒデ?」
「杏樹、お前――大丈夫か!?」
物が錯乱する居間。倒れ伏す杏樹。その背を覆うように長方形の物体が伸し掛かっていた。
「見てわからないのかしら? タンスの下敷きになる遊びをしているのよ」
「あ、うん、無事ならそれで良い。遊びの邪魔をするのは悪いから、帰る」
「待ちなさい。どう? 久しぶりに一緒に遊ばない?」
俺にそんな高尚な遊びを嗜む趣味はない。その場で足踏みして足音だけ立てると、杏樹は慌てたように次の言葉を掛けてくる。
「解ったわ。無様に助けを請えば良いのでしょう? 助けて、何処かの骨が折れているかも知れないわ」
「最初から正直に言ってれば良かったんだよ」
タンスに手を掛ける。
「言わなくたって解るでしょう? 言わせたがりだなんて、貴方はいつからそんな鬼畜に成り下がってしまったのかしら」
「骨は折れてるかも知れないけど、心は折れてないみたいだからこのままでも大丈夫だよな」
「っ……狭量な男ね」
人が外道のような言い草をしてるけど、俺は悪くない。
なんだか突然眠くなってきた。目の前に丁度いい長方形のベッドがあるから、ここで少し休もうかな。
杏樹はしばらく独力で奮闘していたけど、最後には心も折れてしおらしくお願いしてきた。
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