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朝を何事も無く迎えられたと言う事は、差し迫った状況には陥っていないのだろう。
学校への行きしなで、この街の自治を行う有志の集団『自警団』の白い羽根をモチーフにした腕章を付けた者を見かけたから尋ねると「セントラルの機能に問題は生じていない」と教えてくれた。
HRまでの時間が余っていたので、なんとなく部室に立ち寄ってみる。
「そりゃ、誰も来てないよな」
この部屋は従来で言うところの校長室に当たるようで、備品の品質が高い。誰も使ってないから使ってる。そんな感じだ。
どうせなら良い部屋が良い、そんな発想をしたんだと『思う』。
最奥には豪奢な社長机っぽいのがある。その上で、古ぼけたラジオが異彩を放っていた。
とりあえず、電源を入れる。聞こえてくるのは勿論ざーざーと言う意味を為さない音の嵐だ。
そのまま社長机と一組になっているファーのカバーが掛けられた椅子に腰を――下ろさない。そこに座るのは、何だか憚られるんだ。
社長机の手前に配置されているパイプ椅子が俺の定位置。
体重を掛けると僅かに軋みをあげる。この場所はしっくり来る。
「終活部、か」
消滅予告が届いて、俺は自分の人生に消滅する以外の何かを求めた。
自身の終わりを意識すると、どうしても気が急く。向かうべき方角も定まらぬまま、焦りだけが募る。
他にも俺のような人間が居るかも知れないと、この部を作った。
「己の人生を結実させる。その為に、部員同士で相互協力をする」
それが、部則。口に出しながら、部室を見回した。
「こんな部活、俺らしくないよな」
部室にしたってそうだ。俺が選ぶなら、もっと機能的か、それか秘密基地のようなひと目に付き難い所を好む。
それに、ただ集まるだけなら駄菓子屋だっていい。
人生の結実? 部員同士で協力する?
――俺自身、道筋すら見えていないのに?
『明確な目標を持つ他人を参考にする為』という尤もらしい設定がある。でも、改竄されている確信があった。
だって、俺を除く部員三名のうち、二人が旧知の人間だ。で、後一人は幽霊部員。つまり、消滅予告が届く前と変わらない生活をしている事になる。
「こんなの、あそ部だ」
だから、そう。俺は憶えてる。頭は忘れてしまっても、心とかそんな感じの深い所が忘れてない。
この場所には他の誰かが居たんだ。
そして俺は、その人にこの部を託された。
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