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  必要十分の生産を図り、消費する。拙いながらも理想的な循環を一から築き上げた集団は――何処からともなく到来した、略奪に生き方を見出した者達によって支配されてしまう。 「いい加減にしろ、ガキどもっ! 食料を恵んで欲しいのなら、ここで汗水たらして働け! 俺達はそれを拒みはしない!」 そう気勢を上げた大人が見せしめに殺された。その亡骸に駆け寄った人々も、羽虫を払うように一瞬で生命を奪われた。 それは、デモンストレーションのようなものだったのだろう。心ゆくまで狂気的な異常性を知らしめた略奪者は、次はお前の番かもなと言うように一人一人に一瞥を投げて、その心にこれからの立場を刻みこむ。 「今日からお前達は俺等のドレイだ。生きていたければ、俺達の命令に逆らわない事だ」 数だけを見れば略奪者の方が劣勢だ。けれど、大人達は抗戦を選択しなかった。 それは、恐怖に苛まれながら身を竦ませる子供たちを守る為だったのだろう。俺も怖かった。 親しい隣人が、眼前に広がる赤い湖に溺れる未来を想像して、震えていたのを覚えている。 そして、俺達は奴隷になった。  ◇   ◇   ◇ 目を醒ます。瞼を開いたつもりなのに、視覚は一向に黒以外の色を灯さない。胡乱とした意識で記憶を漁っていると、ともすれば微風のような声が耳に入った。 「仮眠を取ってたんだっけ……」 姿勢の所為で不快感がへばりついた身体を動かしてスマホを取り出す。 画面の明るさに目を細めながら時間を確認すると、あれから3時間ほど経過していた。寝過ぎだろ。 疲れてたのか? あんな不愉快な夢を見るくらいだ。不安が余計な心労を増やしていたのかも知れない。 悪夢のプロローグ。夢じゃない、現実に起こった出来事。そして、もう終わった出来事だ。 「回顧の前に、目先の問題を片付けないとな」 誰にでもなく呟いて立ち上がる。うんとノビをしてバッキバキの身体を軽くほぐした。 制服に着替えてから階段を上がっていくと、二人の頭が視界に入ってくる。 尻尾をぶら下げた方がゆっくりと回って、双眸が俺を迎えた。 「身体は休まりましたか?」 「寝すぎて身体の節々が痛いくらいだ。俺が見張るから、二人は奥に引っ込んでいてくれ」 「ありがとうございます……と言いたい所ですけど」 月日さんは苦笑を浮かべて、傍らの肩に寄りかかったまま微動だにしない大上を見る。
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