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  やけに大人しいと思ったら、そういう事か。 「感情のままに刃を煌めかせてしまったのか……薄々気付いてたけど、月日さんって怒らせると怖いよな」 「違います! ただ眠っているだけです!」 「永久の眠り?」 「生物的な睡眠です!」 だろうな。打てば響く反応に、時と場合を弁えずに調子に乗ってしまった。 大上が身動ぎをすると、他人の口止めでもないのに月日さんは慌てて自分の口を押さえた。口は別の生き物なのか。 その姿が微笑ましくて、頬が緩んでしまう。吐息のようにか細い声で言う。 「一度起こして、地下で改めて眠れば良いだろ」 「こうもあどけない寝顔を見せられてしまうと、何だか起こすのも憚られます」 声量が抑えられた返事は距離の都合で聞き取りづらかったけど、いつもよりも更に静かな街のおかげで辛うじて届いた。 「月日さんにとって、大上は度し難い仇みたいなものなんだよな。それなのに気を遣うのか? 今後の事を見越した点数稼ぎなら大上には通用しないぞ」 「そうですね。大上さんは誰よりも人の内面に聡いですから」 「急に達観した顔をされても、俺には月日さんが何を言いたいのか全く察せないんだけど」 「開き直っただけです。機嫌を損ねて弄ばれるのは避けたいです」 そう言って、月日さんが遠い目をする。達観じゃなくて諦観だった。大上が眠っている間は平和そのものだもんな。 「土岐くん。時間の慰めに、変な質問をしても良いですか?」 「俺に答えられるものなら」 「私達の心は――意志は、何処にあるのでしょうか」 無聊をかこつのに哲学を持ち出すなんて、俺達はいつからそんな高尚な人間になったんだ。 そう茶化しても責められはしないんだろうけど……鴉が暗躍しているであろうこの街のこの夜に、無粋な答えは自重しようと思った。 「過去、じゃないか」 「過去、ですか?」 経験と言い換えても良い。俺達の心は流動的だ。事ある毎に忙しなく感情を動かして、ぐにゃぐにゃと形を変えようとする。 「上手く言えないけど、此処にこうして俺が立っているのは、過去の経験を元に思考して、選んだ結果だからな」 過去が人の意志を形作るなら、その在処はきっと過去だ。 「月日さんはどう思ってるんだ?」 「そうですね……私も朧げになりますが」 月日さんが人指し指で俺を指差す。え、俺?
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