プロローグ

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けたたましい衝撃音と共に大型トラックと衝突した。 辺りから一斉に悲鳴が上がり、誰の脳裏にも最悪の光景がよぎる。 しかし、通行人達が見た現実は予想と全く違うものであった。 トラックはまるで鋼鉄の壁にぶつかったかのようにサイカの手の平から中心に大破しており、煙をあげていた。 サイカは腕をあげたまま微動だにしておらず、傷を負った様子もない。それどころかその場から動いた様子すらなかった。彼の隣にいる子供も無傷で、何が起きたのかわからぬ様子でサイカを見上げていた。 それは紛う事なく、"少年が猛スピードの大型トラックを片腕で受け止めた"という信じがたい事実であった。 通行人達が呆気に取られ固まる中、サイカはボールを拾い子供に手渡した。子供はサイカの顔をじっと見た後、ぺこりと一つお辞儀をしてからボールを受け取り、笑顔で母親のもとへ走り寄っていった。母親は子供を隠すように力強く抱き締めると、歩み寄ってきたサイカに目を向けた。 「次から子供から目を離すなよ」 そう言ったサイカに向けられた母親の目に宿る感情は、喜びでも、ましてや感謝でもない。 「あなた一体"何"なの...?」 恐怖。それは未知のものに対する純粋な恐怖であった。 "何者"とすら言われない自分を嘲りながら、サイカは答えた。 「そんなの俺が一番知りてぇよ」
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