8人が本棚に入れています
本棚に追加
◆
6時間目が始まる直前、春岡さんが僕の席の方へとスタスタ歩いて来る。
(まさか、まさか……!?)
ああ、間違いない! 僕の前で立ち止まる春岡さん。
甘い爽やかな香りが、長い黒髪からふわっと舞い上がる。
「は、春岡さん?」
期待に胸おどらせ、春岡さんの美しい赤いくちびるが、動くのを見た。
「こ、幸山君」
春岡さんがしゃべった!!
聴き取れるか聴き取れないか、分からないほどの小さなウィスパー・ボイス。
(ああ、さしずめ森の野鳥ジョウビタキの美しいさえずりの様だ!!)
「ど、どうしたの? 春岡さん。
もし、言いづらいことだったら、あっちの窓際の方に行こうか?
春岡さん、いつも窓の外ばかり見てるよね。青空とかひこうき雲とか大好きなのかな? ハハハ……僕も綺麗な風景は大好きなんだ」
(頑張れ! 僕!! 落ち着け、僕!!)
僕は大昔の映画に出て来るイカした船乗りの様に、上半身を窓枠に乗り出し、首を開いている窓から出して、眩しげに空を見上げるナイスなポーズをとった。
春岡さんは、ほんのちょっと後ずさりして、小さくつぶやく。
最初のコメントを投稿しよう!