誰そ彼

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時は金なりとはよく言ったものだ。 静まった店内、周りに響くのは時計の針が動く音のみ。 昼の営業も終わり、夕方の仕込みも終えた頃。 いつの間にか、女性が一人。 席に座って、壁に掛かっているメニューを見つめていた。 僕はいつものようにお冷とおしぼりを手にして、女性に向かって歩いていった。 突如、彼女は立ち上がり。 ものすごい、勢いで話し始めた。 「あっ! 宇宙から迎えに来た! すみません! 特製お買い得ギョーザを3人前、急いでテイクアウトで!」 あまりにも急に言われたので僕は頷きながら、慌てて調理場に向かう。 10分もかからずに、テイクアウト用に包み終え、レジの前にいくと。 女性は携帯電話を片手に、聞いたことのない言葉を話し始めている。 「お、お客さま……」 僕はやっとの思いで女性に声をかけると、女性は笑顔で金魚の形をしたガマ口を取り出した。 「ありがとうございます。領収書、お願いしてもいいですか?」 「あっ、はい」 僕が領収書を取り出すと、女性は名刺を取り出す。 「名前はプププープ・ププープ・プープ」 「え?」 「アルファベットの小文字で、プププープ・ププープ・プープで」 僕は意味がわからないまま、言われた通りに書く。 確かに、名刺にはプププープ・ププープ・プープ所属、と書いてあるけれど。 「但し書きは、コロネ代金でお願いします」 僕にはもう、意味がよく分からない。 けれども、女性は今までにないくらい、真剣な顔をしている。 僕は、言われた通りに書くしかなかった。 「ころねは平仮名ではなく、カタカナでお願いします」 領収書を書き上げると、女性は安心したように胸を撫で下ろした。 僕に頭を下げると、笑顔で出口に向かう。 最後、僕の方に振り返る。 とびきりの笑顔を向けながら。 「そろそろ満足したでしょうから、あちらに帰ったほうがいいですよ。ご家族も心配しています」 おわり
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