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「あと、ワシにこんな書状が届いた」
信長は濃に届いた文を見せる。
「これは・・・」
「十三代将軍足利義輝公の弟、足利義昭公の上洛の手助けを求める書状だ」
「上洛・・・京に向かう大義名分・・・」
まさに渡りに船。
天下統一を目指すかどうかを考えている時に周りが勝手にいろいろとお膳立てをしていってくれている。
「まるで天啓ではないか」
信長は稲葉山城の天守閣から見える城下町を見渡しながら大いに笑った。
「・・・殿がこの地を岐阜と改めて京を目指すのであれば、私から一つお願いしたいことがございます」
「なんだ?」
「帰蝶の名を・・・濃に変えたく存じます」
濃にとって帰蝶はこの戦国時代を生きるための偽名のようなものだ。
それを本名に戻そうと考えていた。
「美濃の地名から濃か
よいではないか
道三も美濃の地名がお前の名として残り天下を目指すとなれば浮かばれよう」
濃にとってはただの本名。
しかしこの時代の人達からしてみれば地名を名前に使ったという解釈になる。
「ならばワシからも一つ、お前に頼みがある」
「はい、なんでしょうか」
「ワシが死ぬまで、ワシのもとにいてほしい」
それはまるでポロポーズのようなもの。
先日、天守閣で唇を合わせたことで仲は深まったような気はしていた。
その仲をさらに深める一言が信長の口から飛び出した。
「はい、承りました」
濃は迷うことなく了承の返答が言葉となった。
そこに迷いもなければ言ってしまった後悔もない。
「織田家は天下を目指す
ワシの隣に濃がおり、この岐阜の地から、大義名分をもって京へと上洛する」
「はい、共に成しましょう
私も持てる力の全てをもってお支えいたします」
この日を境に織田信長は天下統一を目指して歩み始める。
絶大な信頼と最愛の妻の濃と共に、新たな歴史の創造のために一歩を踏み出したのだった。
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