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屋上から見る初夏の空はどこまでも青くて、入道雲がもこもこと覆っている。
空は目に痛いほど青いくせに、雲は子供がクレヨンで塗り重ねたみたいに真っ白で、そのくっきりはっきりとした境界線に私はわけもなく惹かれた。
「幽霊なんだ」
隣で一緒に空を見上げていた奥間がぽつりと呟いた。
普段可笑しいくらいに無口な彼が放った言葉は、強い夏の風に吹かれて吹き飛んでしまいそうだった。
「ふうん、誰が」
「…俺が」
幽霊なんだ、ともう一度呟いて、青い金網にガシャンと背を預けた。
私が奥間と会ったのは入学式の春だから、半年くらい前か。
人と一緒に食べる食事が嫌いだった。
何故そこまで親しくもない女子と、好きでもない芸能人の話や、興味のないファッションの話や、下らない恋物語をかたらなくてはいけないのだ!
別に人が嫌いだったわけではないけれど、そうして食事を付き合いとして見ることが嫌だった。
だから私は一人の場所を探し求めて、最終的にこの屋上にたどり着いた。
開け放されてはいるものの、薄暗い雰囲気が人を近寄らせないそこは、私の一人飯には最適の場所だった。
初めてそこに行った日も、奥間は居た。
屋上の端っこで空を眺めて一人ぼっちで。
「どうしたの」
「…!……」
声をかけたら酷く驚いた顔をされたけど、結局は会釈をされただけで終わった。
私は無言でご飯を食べた。
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