第1章

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屋上に行けば、いつも奥間はいる。 風が強い日も、雨が降る日も、カンカン照りの日も。 いっつも黒い学ランを着て、空をぼうっと眺めて立っている。 夏くらいから、私と奥間は喋るようになった。 確か、私が名前を聞いたことがきっかけだったような。 「名前、なんていうの」 「……奥間」 「私は古尾。…いつも、何見てんの」 「空。雲が、いっぱい。……飛んでみたい」 その日から彼は“屋上の人”から“電波な奥間”に進化した。 彼は恐ろしい程に無口で、ほとんど私が一方的に喋るだけで会話は終わった。 それでも相槌を打ってくれたし、嫌な顔をしなかったし、私が来たら少しだけ目元を緩めてくれるようになった。 話すのはいろんなこと。 屋上の、奥間の前だけでは、私は他人に媚び諂わない仮面を脱いだ本当の私になれた。 奥間のいる屋上が好きだった。 「死んだんだ、ここで」 頭上で飛行機雲が伸びる。青い空によく映えた。 「そうなの。死んでるの、君」 「このフェンスが付いたのも、俺が飛び降りたから」 「今日は随分饒舌ね」 いつもなら一日にこんなに言葉を発することなんてないのに。 奥間はアーモンド形の目をきゅっと細めて薄く笑った。 風が強く吹いて、私のセーラー服のスカートと、奥間の学ランがバタバタと揺れる。
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