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屋上に行けば、いつも奥間はいる。
風が強い日も、雨が降る日も、カンカン照りの日も。
いっつも黒い学ランを着て、空をぼうっと眺めて立っている。
夏くらいから、私と奥間は喋るようになった。
確か、私が名前を聞いたことがきっかけだったような。
「名前、なんていうの」
「……奥間」
「私は古尾。…いつも、何見てんの」
「空。雲が、いっぱい。……飛んでみたい」
その日から彼は“屋上の人”から“電波な奥間”に進化した。
彼は恐ろしい程に無口で、ほとんど私が一方的に喋るだけで会話は終わった。
それでも相槌を打ってくれたし、嫌な顔をしなかったし、私が来たら少しだけ目元を緩めてくれるようになった。
話すのはいろんなこと。
屋上の、奥間の前だけでは、私は他人に媚び諂わない仮面を脱いだ本当の私になれた。
奥間のいる屋上が好きだった。
「死んだんだ、ここで」
頭上で飛行機雲が伸びる。青い空によく映えた。
「そうなの。死んでるの、君」
「このフェンスが付いたのも、俺が飛び降りたから」
「今日は随分饒舌ね」
いつもなら一日にこんなに言葉を発することなんてないのに。
奥間はアーモンド形の目をきゅっと細めて薄く笑った。
風が強く吹いて、私のセーラー服のスカートと、奥間の学ランがバタバタと揺れる。
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