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「多分、ずっと、存在を認めてほしかった」
死んでいるのだという言葉はどうにも嘘には聞こえなくて、でもそれは全く現実味がなくて、どうすればいいのかわからなかった。
「出来の悪い兄で、親は弟ばっか構ってた。弟、は、俺を馬鹿にしてた」
出来そこないだと嗤われた。
「学校中に、いじめ、られた。いないものとして、扱われた」
邪魔ものだと罵られた。
「人が、怖く、なった。喋れなくなった」
死んでしまおうと思って屋上から飛び降りた。
淡々と語る彼の体を抱きしめて、そんなことないよって言ってあげたかった。
私の話を聞いてくれたのは奥間だ。
私を認めて一緒にいてくれたのは奥間だ。
私には、奥間しかいなかった。
君は色々なことを知っていて、よく見るところころ表情が変わっていて、いつも私を待っていてくれたんだ。
「飛び降りて、死んで、此処に縛られて。でも、古尾が、見つけてくれた」
喋るのが苦手な彼の言葉はとてもゆっくりで拙くて、でも一生懸命想いを伝えようとしてくれていて暖かかった。
少なくとも、悪意ばかりを喚く他人なんかよりも、数百倍も。
「古尾、好きだよ。古尾が俺にいっぱい話しかけてくれて、認めてくれて、幸せだったんだ」
奥間の細くて骨ばった手が私の頬に触れる。
ああ、本当だ、何にも感覚がない。
これが初めて君に触れた瞬間だ。
「お別れだ。今日は、俺が、死んだ日なんだ」
きっと今なら安らかに眠れる。
ありがとうと。
さようならと。
無口で口下手な彼は、学ランをはためかせながらゆるりと笑った。
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