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家に戻り、父の書斎に入る。
あの頃のまま…
時が止まった父の部屋。
父の机の前に立てば、飾られた1枚の写真。
あの頃の僕らとあの人が写っている…幸せな風景。
流れ落ちた…一筋の涙には
気づかないふりをした。
書斎の中から、古いパンフレットを取り出す。
【恵ピアノ教室発表会】
丸い可愛らしい文字で書かれた手書きのそれには、あの人に繋がるかもしれない連絡先が記されていた。
【03-××△△-○○××】
僕は受話器を手に取り…
祈りを込めて番号を押した。
プ…プ…トゥルルー、トゥルルー
カチャ
『はい、恵ピアノ教室です。』
あの頃の…声が聞こえた。
明るく、優しい…恵先生の声…。
母と共に通った…楽しいピアノ教室。
「あっ…お久しぶりです。僕…。」
『もしかして…軽部くん?哲人くんでしょ?あっ…違ってたらごめんなさい…。」
元気な嬉しそうな声にあぁ…僕はこの人にも心配を掛けていたんだと心から申し訳なく思った。
「すみません…何年も無沙汰してしまって…。」
『いいの…いいのよ。あんな事があったんだもの…。元気そうで良かったわ。』
電話越しに優しく微笑む恵先生の姿が見えた様な気がした。
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