第1章

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家に戻り、父の書斎に入る。 あの頃のまま… 時が止まった父の部屋。 父の机の前に立てば、飾られた1枚の写真。 あの頃の僕らとあの人が写っている…幸せな風景。 流れ落ちた…一筋の涙には 気づかないふりをした。 書斎の中から、古いパンフレットを取り出す。 【恵ピアノ教室発表会】 丸い可愛らしい文字で書かれた手書きのそれには、あの人に繋がるかもしれない連絡先が記されていた。 【03-××△△-○○××】 僕は受話器を手に取り… 祈りを込めて番号を押した。 プ…プ…トゥルルー、トゥルルー カチャ 『はい、恵ピアノ教室です。』 あの頃の…声が聞こえた。 明るく、優しい…恵先生の声…。 母と共に通った…楽しいピアノ教室。 「あっ…お久しぶりです。僕…。」 『もしかして…軽部くん?哲人くんでしょ?あっ…違ってたらごめんなさい…。」 元気な嬉しそうな声にあぁ…僕はこの人にも心配を掛けていたんだと心から申し訳なく思った。 「すみません…何年も無沙汰してしまって…。」 『いいの…いいのよ。あんな事があったんだもの…。元気そうで良かったわ。』 電話越しに優しく微笑む恵先生の姿が見えた様な気がした。
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