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『ねぇ、弾いて見せてよ。』
愛里ちゃんは俺をピアノの前に座らせ演奏をしろと誘った。
恵先生はそれを肯定するように何度も頷き、そして笑っていた。
いつだってまっすぐに向かってくる。
その姿が…あの子と重なって無下にすることが出来ない。
右手を左手で持ち上げて、鍵盤の上に置いた。
小さく震える指を叱咤し、俺は鍵盤にゆっくりと触れた。
ドド ソソ ララ ソー
そう聴こえるように弾いてみた。
誰もが引けて、誰もが知っている…。
ウフフ…
笑い声が聞こえた気がした。
2人を見たら…優しく優しく…微笑んでいる。
そして…
恵先生は、俺の左手を鍵盤へと導き…
「続きは…?」
俺は…
ゴクリと喉がなった…。
次の音はきっと、震えてかすれている…。
俺のピアノは…
震えて、弱々しい音を奏でているに違いない。
俺の不安が…俺の迷いが…きっと情けない音を奏でているだろう…。
けれど…もし…もしも…
もう一度…弾けるなら、あの子のために…
伝わるだろうか…伝えられるだろうか…。
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