第4章

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初めて…曽根さんのピアノを聴いたのは、古い映像の中。 泣きじゃくる男の子の頭を優しく撫でて、微笑みながらピアノの前に座る。 そうして…まだ涙の止まらない男の子のを見て、優しく人差し指を唇にあてる。 不思議と男の子の泣き声が聞こえなくなった。 ポーン… 優しいピアノの音が流れ始めた。 お姉ちゃんがポツリと呟いた。 本当はね…曽根くんはベートーヴェンのピアノソナタ14番を弾く予定だったのよ。 でも止めちゃった…。 あの子のために… 流れてきたのは…優しい優しい…夢…トロイメライ だけど…少し違った。 ポーンと高く音が上がるはずなのに…このトロイメライは上がらない… トロイメライなのに…違う曲…。 「これは…あの子の為に彼が弾いてあげたトロメライ…。」 お姉ちゃんが懐かしそうに呟く。 彼は…いつもあの子の為に…優しい音楽を奏でていたの。 多分…何処にいても…誰といても… 彼のピアノは、あの子の為…。 ドド ソソ ララ ソ… そうして今…アタシの前でその優しい音が流れる。 アタシの耳でも聴こえる…伝わる…優しい想い…。 『ずるいな…』 お姉ちゃんの手の平に呟いた。
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