169人が本棚に入れています
本棚に追加
初めて…曽根さんのピアノを聴いたのは、古い映像の中。
泣きじゃくる男の子の頭を優しく撫でて、微笑みながらピアノの前に座る。
そうして…まだ涙の止まらない男の子のを見て、優しく人差し指を唇にあてる。
不思議と男の子の泣き声が聞こえなくなった。
ポーン…
優しいピアノの音が流れ始めた。
お姉ちゃんがポツリと呟いた。
本当はね…曽根くんはベートーヴェンのピアノソナタ14番を弾く予定だったのよ。
でも止めちゃった…。
あの子のために…
流れてきたのは…優しい優しい…夢…トロイメライ
だけど…少し違った。
ポーンと高く音が上がるはずなのに…このトロイメライは上がらない…
トロイメライなのに…違う曲…。
「これは…あの子の為に彼が弾いてあげたトロメライ…。」
お姉ちゃんが懐かしそうに呟く。
彼は…いつもあの子の為に…優しい音楽を奏でていたの。
多分…何処にいても…誰といても…
彼のピアノは、あの子の為…。
ドド ソソ ララ ソ…
そうして今…アタシの前でその優しい音が流れる。
アタシの耳でも聴こえる…伝わる…優しい想い…。
『ずるいな…』
お姉ちゃんの手の平に呟いた。
最初のコメントを投稿しよう!