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曽根さんは、傷付いたような眼差しを僕に向けて…
一言
「わかった…。」
と小さく答え、パタンと扉の閉じる音だけが響いた。
僕は深く深く、息を吐き出し…
その場にしゃがみこんだ。
「…緊張した…。」
大丈夫、まだ時間がある。
恵先生からあの人がピアノを弾き始めたのを聞いた。
だから、僕は僕のできる事をしなくちゃいけない。
店の奥からあの人がこっそり隠した壊れた箱のオルゴールを取り出す。
「曽根さんは昔から抜けてるよね…。大事な物はいつも楽譜の裏に隠すんだ。」
螺鈿細工が欠けた箱。
開けばシリンダーが、曲がったオルゴール。
僕は丁寧に、修理を始めた。
貴方と再開した時に流れた微かなメロディー…。
僕が探していた、幸せの曲…。
貴方が微笑んで…
「これは…君だけの曲…《トロメライ》だよ。」
そう言って弾いてくれた…
幸せの…
ポトリと涙が落ちた。
おかしいな…涙なんて…。
涙の意味がわからないよ…。
「これは…僕だけの曲だ…。」
だから…
これは、僕が持っているべきだよ。
いいよね…
いいよね…曽根さん…
代わりに
僕の思いをここに残すから…。
トロメライは僕に下さい…。
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