第4章

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曽根さんは、傷付いたような眼差しを僕に向けて… 一言 「わかった…。」 と小さく答え、パタンと扉の閉じる音だけが響いた。 僕は深く深く、息を吐き出し… その場にしゃがみこんだ。 「…緊張した…。」 大丈夫、まだ時間がある。 恵先生からあの人がピアノを弾き始めたのを聞いた。 だから、僕は僕のできる事をしなくちゃいけない。 店の奥からあの人がこっそり隠した壊れた箱のオルゴールを取り出す。 「曽根さんは昔から抜けてるよね…。大事な物はいつも楽譜の裏に隠すんだ。」 螺鈿細工が欠けた箱。 開けばシリンダーが、曲がったオルゴール。 僕は丁寧に、修理を始めた。 貴方と再開した時に流れた微かなメロディー…。 僕が探していた、幸せの曲…。 貴方が微笑んで… 「これは…君だけの曲…《トロメライ》だよ。」 そう言って弾いてくれた… 幸せの… ポトリと涙が落ちた。 おかしいな…涙なんて…。 涙の意味がわからないよ…。 「これは…僕だけの曲だ…。」 だから… これは、僕が持っているべきだよ。 いいよね… いいよね…曽根さん… 代わりに 僕の思いをここに残すから…。 トロメライは僕に下さい…。
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