第1章

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3日後… 僕は、恵先生の教室にいた。 あの頃… 音大を出たばかりの恵先生は…あの頃のまま、お母さん先生になっていた。 「お久しぶりです、恵先生。」 「まぁ…まぁ…、大きくなって…。あの小さな哲人君がこんなに…。」 瞳を潤ませ僕の頬に触れる。 あの頃…大きく感じた恵先生の手は、とても小さくなっていた。 「先生…あの人は…曽根さんは…何処にいますか…?ピアニストとしてデビューされたんですよね。」 僕の言葉に先生は寂しそうに微笑み… 「何処にも…何処にも行ってないわ。あの頃と同じおじいさまのお家で暮らしているわ。」 そう…教えてくれた。 先生は…その瞳を曇らせて、静かに続ける。 「哲人君に色々なことが起こった様に…曽根君にも色々なことが起こったのよ…。」 その目で、耳で感じて来てちょうだい。 彼に何が起こったのか…あなた自身の心で受け止めて来て… そう…僕に語り…最後に 恵先生は… 「哲人君のお願いを聞いてあげたかったけど…私からお願いする事は出来ないわ…残酷すぎる…。」 そう言って涙を流した。 僕の願いは…残酷なんだろうか… ただ… あの頃と同じトロメライが聴きたいだけなのに…。
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