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喫茶店での会話は…唇を読む気も起きず…
味を感じないトーストとコーヒーを…無為に口に入れていた。
ただ…
恵先生は悲しそうに哲人を見つめ…
愛里ちゃんは憎々しげに睨んでいるのが印象的だった。
俺の腕に、自分の腕を絡ませながら、
せわしなく手で語りかける愛里ちゃんに適当に言葉を手で返しながら…
恵先生と数歩先を歩く哲人の背中を見つめていた。
小さかった体しか覚えていなかった…
本当は…あの背中に耐えられず何度も爪を立てた…。
きっと…今も哲人の背中には…
俺だけが残した爪痕が残っている。
あの頃…俺は確かに小さな子供に手を差し伸べていた。
だが…
今は、傷跡を残すくらいあの広い背中にすがりついていた。
「クス…。クスクス…。」
俺の口から愛里ちゃんには聞こえない…小さな笑い声が溢れた。
小さな子供を愛おしんでいた。愛すべき素直で可愛い子供だった。
再開しても…その認識は変わらなかった。
違う…
変えたくなかった。
たとえ憎しみから俺のプライドを壊すための行為であっても…
俺は…確かに喜んでいたなんて…
気づきたくなかった。
滑稽だ…哲人は…俺の背に…キライダヨ…と囁いていたのに…。
再開した本当は優しい青年に…すがりたくなるほど一目で恋に落ちたなんて認めてはいけない。
愛されてると勘違いするほど憎まれているのに…。
俺が愛するなんて間違っている。
この病室の扉を開ければ…俺は哲人の憎悪を受け取る。
そのために生きてきた…。
怯えながら…生きてきたんだ。
そうして、扉は開かれた。
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