第5章

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まだ…暖かい祖父の手を握りしめ 「おじいちゃん…これで…安心できた?最後に…聴けた?」 そう語りかけた。 色んな感情すらも消えていたはずなのに… 祖父の顔は不思議と満足そうな…安堵したような…安らかな顔だった。 「ありがとう…みんなにあったら…僕は元気だよって伝えてね。」 祖父に最後の挨拶を済ませると、お世話になった先生方にも挨拶を済ませ… 僕はひっそりと1人で祖父を送り出した。 お通夜も葬式もない祖父との別れはあっけなく終わり。 僕の手の中には…祖父だったものの欠片が残された。 家は…とうに売った。 大学も…辞めた。 そうして…僕の中に残ったものは…案外に少なくて…。 それ故に、捨てきれないものだった。 「よろしくお願いします。納骨日にはまた伺います。」 家族の眠るお寺に祖父の欠片を預けて… 僕は鞄一つとトランクケースを持って、バスに乗り込んだ。 駅に向かう道のりの中…曽根さんの家の屋根が見えた。 「あっ…。」 それだけで、曽根さんに会いたくなる。抱きしめて…キスしたい…。 「もう…出来ないけど…。」 さようなら…曽根さん…。 ごめんなさい…多分ずっと愛してる。
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