第5章

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バスと電車とバスを乗り継ぎ…山と緑と畑しかない場所に降り立った。 「空気がいいな…。」 バス停から15分くらい歩くと…ログハウスが見えてきた。 ここが新しい僕の住まい。 あの街を離れる決心をしたのは…愛里ちゃんのおかげかもしれない。 あのままだったら僕は曽根さんを壊してしまった。 曽根さんが愛里ちゃんを愛したから… 僕は…この場所で新しい生き方をする事ができる。 住み込みの木工工房の仕事を見つけたのは偶然。 僕のオルゴール用の箱を入れた就職希望の用紙は…すぐに採用の電話を届けてくれた。 「これから、よろしくお願いします。」 明るい工房には、穏やかなご夫婦がいた。 案内された僕の部屋で一番最初にした事は… 螺鈿細工の箱を出窓の中央に置いた事だった。 「綺麗な箱ね…。」 奥さんがその箱をうっとりと眺めた。 僕は…嬉しくて… 「僕の宝物です。」 この箱の中に曽根さんとの全てを閉じ込めた。 全てを閉じ込めて…新しい生活が始まった。
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