第5章

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『アタシは曽根さんのピアノが欲しかった。』 愛里ちゃんは淡々と手で語りかける。 アタシは曽根さんのピアノが欲しかったの。 アタシと一緒に…奏でてくれる貴方のピアノが欲しかった。 「俺の…ピアノ…?」 だって…お姉ちゃんが言ってた… 世界中で一番優しいピアノの音だって…。 アタシはお姉ちゃんの耳を信じてる。 私が欲しいのは優しい音。 悲しい時、苦しい時包んでくれる優しい音… 孤独を癒す優しい音が欲しかった。 『ピアノを弾いて…下さい…。ピアニストに戻って…。 アタシの耳でも優しく聴こえる音を聴かせて…。』 俺は…首を横に振った。 音がわからない俺が…記憶に残る以外のピアノを弾けるはずがない。 無理だ…。 それに…今も昔も、聴かせたい相手は一人だけだった。 「耳も聞こえない…たった一人のためにしか弾かないなんてピアニストじゃない。」 そう言って断った俺に… 恵先生は俺の目を見て強く言った。 「なら…その耳が聞こえるようになると言ったら?」 それは…青天の霹靂だった。 動けないでいる俺に今度は愛里ちゃんがたたみかけた。 『アタシを聞こえるようにしてくれた先生なら…治せる!』 それに…と恵先生は微笑んだ。 「何処かにいる彼に聴いてもらうには…プロになるのが一番早いわ。」
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