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『アタシは曽根さんのピアノが欲しかった。』
愛里ちゃんは淡々と手で語りかける。
アタシは曽根さんのピアノが欲しかったの。
アタシと一緒に…奏でてくれる貴方のピアノが欲しかった。
「俺の…ピアノ…?」
だって…お姉ちゃんが言ってた…
世界中で一番優しいピアノの音だって…。
アタシはお姉ちゃんの耳を信じてる。
私が欲しいのは優しい音。
悲しい時、苦しい時包んでくれる優しい音…
孤独を癒す優しい音が欲しかった。
『ピアノを弾いて…下さい…。ピアニストに戻って…。
アタシの耳でも優しく聴こえる音を聴かせて…。』
俺は…首を横に振った。
音がわからない俺が…記憶に残る以外のピアノを弾けるはずがない。
無理だ…。
それに…今も昔も、聴かせたい相手は一人だけだった。
「耳も聞こえない…たった一人のためにしか弾かないなんてピアニストじゃない。」
そう言って断った俺に…
恵先生は俺の目を見て強く言った。
「なら…その耳が聞こえるようになると言ったら?」
それは…青天の霹靂だった。
動けないでいる俺に今度は愛里ちゃんがたたみかけた。
『アタシを聞こえるようにしてくれた先生なら…治せる!』
それに…と恵先生は微笑んだ。
「何処かにいる彼に聴いてもらうには…プロになるのが一番早いわ。」
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