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正直…俺の頭はパンク寸前だった。
どうやって…歩いて帰ってきたのかも覚えてないくらい
動揺していた。
今更…この耳が聞こえるようになるという。
ピアノを辞め…また趣味で弾き始めた俺にピアニストに戻れという…。
「今更…俺にどうしろと…。」
もう…俺には何もないじゃないか…
哲人の憎しみも…
哲人の祖父への罪悪感も…
それらを受け止めるために生きてきた…
それだけのために生きてきた…
なのに…これはなんだ…?
哲人は…まるで愛されてると錯覚するような復讐しかせず…
哲人の祖父は…おれを呪わず許しを請い亡くなった…
挙げ句の果てに何一つ残さず哲人は消えていった。
恨みも…憎しみも…何一つ残さず…
ここにいた気配すら消してしまった。
おれの人生はただ…許されるために…哲人に尽くさなければならないのに…
哲人は消えて…
俺には…
新しい生き方が示された…。
まるで…奇跡か夢物語のような…明るい未来図…。
「そんなもの…望んでなかった…。ただ…哲人が…ここに…哲人が…。」
いてくれたら…何も望まなかったのに…。
もう…終わりにしよう…
誰も断罪しないのならば…自分が…断罪すればいい…。
俺は…工房に入っていった。
工房には…ナイフがある。
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