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工房に入り、気を削るのに使っているナイフを手に取った。
そのまま首にナイフを当ててみると…
店の奥が目に付いた。
楽譜の置いてある棚…よく哲人が見つめていた。
不思議とどうせ死ぬならそこがいいと思った。
少しでも哲人の残り香がある場所がいいと思った。
楽譜を置いてある棚にはステンドグラスから漏れる光が、緑色に輝き
哲人を浮かび上がらせていた。
美しい光景だった。
今も哲人がいた場所には緑色の光がある。
俺はその場所に立ち今度こそナイフを高く振り上げた。
見上げた先に…ナイフとあるはずのないものを見つけた…。
小さなグランドピアノ…
哲人が作ったオルゴール…。
かシャーン
ナイフが手から滑り落ちた。
俺の瞳は棚の上の小さなグランドピアノしか映さなかった。
忘れるはずがない…哲人が作ったオルゴール…
棚から取り出し中を見れば、やはり哲人の作ったオルゴールだった。
「どうして…これが…。」
ゼンマイを回し…暫くすると、回り始めるシリンダー。
この小さなピアノは…奏でていた。
手紙も何もないまま…ただオルゴールだけがそこにあった。
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