第5章

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工房に入り、気を削るのに使っているナイフを手に取った。 そのまま首にナイフを当ててみると… 店の奥が目に付いた。 楽譜の置いてある棚…よく哲人が見つめていた。 不思議とどうせ死ぬならそこがいいと思った。 少しでも哲人の残り香がある場所がいいと思った。 楽譜を置いてある棚にはステンドグラスから漏れる光が、緑色に輝き 哲人を浮かび上がらせていた。 美しい光景だった。 今も哲人がいた場所には緑色の光がある。 俺はその場所に立ち今度こそナイフを高く振り上げた。 見上げた先に…ナイフとあるはずのないものを見つけた…。 小さなグランドピアノ… 哲人が作ったオルゴール…。 かシャーン ナイフが手から滑り落ちた。 俺の瞳は棚の上の小さなグランドピアノしか映さなかった。 忘れるはずがない…哲人が作ったオルゴール… 棚から取り出し中を見れば、やはり哲人の作ったオルゴールだった。 「どうして…これが…。」 ゼンマイを回し…暫くすると、回り始めるシリンダー。 この小さなピアノは…奏でていた。 手紙も何もないまま…ただオルゴールだけがそこにあった。
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