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それが駄目な事なのは解ってた。
でも、地面に染み込んだ真っ赤な液体の中で、真っ白な顔にいくつもの青い跡を刻んで横たわっているその姿を放っておく事は出来なかった。
「容態はどうだ……?」
木戸がゆっくりと開き、杖を付いた老人が顔を覗かせる。この村の長老様だ。
「はい、もう峠は越えました」
桶に水を汲みながら、笑みを浮かべて応えれば、長老様が口髭の陰でほっと息を吐いたのが分かった。
やっぱり心配してくれてるんだ……
疲れでぎこちなかった笑みが自然と解れた。
「そうか…………」
あくまで仏頂面を保ったままそう呟いて、長老様は手近にあった椅子を引寄せ座る。
表情や言葉とは裏腹に、ちゃんと話を聞かせろ、というのが態度に出ている。
本当は直ぐに水を持っていって、彼の汗を拭ってあげたかったのだけど、仕方がないと長老様の前へと腰を下ろす。
長老様は、村で一番偉い人だからというのもあるけれど、両親を亡くしたわたしにとっては親代わりでもあるから、無下には出来ない。
「もう目立った傷は塞がりました……頭の怪我も皮膚が裂けただけで…………後は意識が戻ればいいんだけど……」
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