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 世は戦乱の真っ只中にあった。  地繋がりの土地の主権を争い、多くの国が建っては滅びを繰り返し、血で血を洗う戦いがあちこちで繰り広げられる。  そのような世が、既に百年近く続いていた。  人々は疲弊し、家族を失い、野心を抱いて、繁栄と衰退の輪廻を巡っていた。  そんな戦禍の中に僅かな転機が訪れたのは、二十年程前の事。  日々散っていく命を憂い、人間の愚かさを嘆いて、この世に生をもたらす神が呪を遺して姿を眩ましたという。  曰く、 『人の子が争う事を辞さぬなら、命の芽吹きは絶えるだろう』  嘘か真かその呪の通り、それからの世に女人が生まれる事はなくなった―――――― 「旅のお方…………すまねぇっ!」  謝罪の言葉と共に降り下ろされる拳。  見定めずに放たれた一撃は、頬を逸れ耳に近い辺りへ当たる。  躊躇のせいで力加減は弱まっていたものの、当りどころが悪いせいで反って長引く痛みが残った。  北を目指し旅路を行く俺は、麒麟山の麓の林道を馬で駆っていた。  東西を分断するように南北に伸びる麒麟山は、龍頭山に続き二番目の高さと、随一の樹海を擁した山だ。
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