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 その麒麟山に沿う東側の林道を抜け、更に三日程北上した先にある氷青(ヒョウセイ)様の治める国。  その国に仕官すべく、半月前に郷里を発った。  父は、同じく氷青様に仕える文官だったが、四年前の戦火に捲き込まれ落命した。  母は、女手一つで俺を育て郷里である小さな村で親類と共に暮らしている。  兄弟のいない俺は、老齢ばかりが暮らす村に久方ぶりに生まれた赤子だった。  そのため、幼い頃から自然と村の皆を護ることが使命だと思っていた。  結果、護るためと身に付けた槍術はいつの間にか上達していった。  そして、元服を迎えた今年、母に奨められ、氷青様の元に仕官することとなった。  ずっとあの村で畑仕事をしながら、母と村の皆を護り生きていくものだと思っていたから、正直仕官を奨められるとは思ってもみなかった。  けれどそれが、氷青様直々の推挙の書状故だと知り、決心した。  ただの文官でしかなかった父をしかと覚えていてくれたのだと、そのご配慮に感じ入ったのだ。  ならば一刻も早くそのお心に報いようと、雪融けを迎えるや否や、出立した。  だが―――――  繰り返し繰り返し、拳が爪先が防具を剥ぎ取られた体に食い込む。
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