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 痛みがはしるたびに、謝罪の言葉が降り注ぐ。  歯を食い縛り、座したまま耐える俺よりも、危害を加える側のほうが数倍苦しそうだった。 「……駄目だな」  けれど、更に追い討ちをかけるようにそんな言葉がかけられる。  俺に対して暴行を繰り返していたその人は、振り上げかけた拳を止めると、絶望的な顔で振り返った。 「……これを使え」  無言で限界を訴える彼の目の前に、錫杖のような細い木片が転がされる。 「ご、ご勘弁を……これ以上は、もう……」  制止を懇願したのもやはり俺では無かった。  半刻程前の事。  立ち並ぶ鬱蒼とした木々も見飽きて、そろそろ林道を抜けるだろうという頃。  西側の林の奥で助けを求める声が聞こえた。  先を急ぐ身なれど、俺はその声を放っておく事が出来ず、馬を止め様子を窺ってしまった。  そこには、頭を抱え命乞いをする農民と思しき男とそれを取り囲むように立つ二人の賊の姿があった。 「馬鹿を言うな…………この程度では樹黄(ジュコウ)様への忠誠は示せぬ」  顔中に広がった涙を拭い、鼻水を啜り上げ、農民風の格好をした男が必死で反論する。
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