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彼はもう五十を越えた壮年の男で、手拭いを巻いている頭から溢れる髪は真っ白だった。
「ふむ……そうか、お前は樹仙導(じゅせんどう)に従えぬというか……」
対して、取り囲む二人の賊はまだ若く精々三十を越えた程度の風貌だ。
二人とも装いは賊のそれだが、体格は細面で、賊にしては少々頼りない。腕に黄色い布を腕章のように巻いている。
本来であれば、このような相手、丸腰であろうと組伏せられる自信がある。
実際、彼等に遭遇した当初は、槍を振るわずに一人を組強いた。それだけすれば、後は自ずと逃げていくだろうと踏んでの事だった。
だが、彼等が背中を見せたその隙を付いて背後から打ちすえられたのだ。
不意を突かれたという事もあり、思わず膝を付いてしまった。そしてこの顛末である。
勿論、それでも逆らう事は可能であった。後ろ手に縛り上げられたからと言えど両足が動けば、逃げる事も、対抗する事も出来た。
しかし、蒼白な顔をして震える手で木片を握り締める壮年の男の姿を見たら、それは出来なかった。
そして、その下らない同情故、俺はここで終わってしまうのかもしれない。
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