第一章・ーいわれたー

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「……」  何故かいる牛を前に絶句する令を押し退けて、普段はこれでもかってくらいに無愛想な明がにこやかに応える。 「初めまして、警視庁捜査一課の明と申します。貴女が通報された、件(くだん)女史でしょうか?」 「そうよ。貴方わたしが他よりちょっと輝いているからって、引いたりはしないのね。驚いたわ。刑事さんね? あのね、通報してくれたのは、ここの飼育員さんよ」  そう。目の前にいるのはただの牛に在らず。  というか、確かに身体は牛なのだが顔は何故だか厚化粧したオカマ的な女性のもので、死ぬ程動じない明はかなりの度合いで友好的な態度で接するのだ。  ヒトの顔を持ちながらヒトに在らず。また、牛の身体を持ちながら、牛にも在らず。  ならば人々はどう呼んだのか? 人に牛を併せ、件、つまりくだんと読ませたのだ。  なかなかマッチしているというか、言い得て妙なこのネーミングに、そうした事を信じない令などは無関心でいる。  視線どころか意識ごと在らぬ方を向いていて、それに気付いた明が睨む。
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