第1章

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それは、突然の出来事だった。 私の所属する企画部と、営業部の親睦会。 普段は業務内容止まりの社員の会話も、今夜はお酒の力もあって低俗なコンパのようになる。 「じゃあ佐藤さんは、今はカレシ居ないんだー!」 先ほどから隣の営業の男が私にうるさく絡む。 一人で次々と話題を変えて話す彼に、相槌を打つのも面倒になってしまう。 「野村。もうその辺にしとけ」 不意に後ろから彼の勢いを抑える低い声が響いた。 営業部部長の藤原さんだ。 野村と呼ばれた男は、藤原さんの一言で急に焦り始めて席を立った。 良かった。これで一人でお酒を楽しめる。 でも。 隣になぜか藤原部長。 「…………」 何か話されるかと思いきや、彼は黙ってギムレットを飲む。 先程の男が、帰って来ようとしたけれど、部長を見て近くのグループへ混ざった。 ……あぁ。守ってくれたんだ。 「……あの、ありがとうございます。藤原部長」 私の言葉に、藤原部長は形の良い口を歪めて笑った。 その仕草に、少し色気を感じた。 部長に興味が湧いて、私から話しかけようと部長の方へ顔を向けた時。突然会場の照明が落ちた。 会場中が突然の出来事に騒然として、暗闇に女子社員のヒステリックな声が響く。 そんな中、何かが私に近づいた。 くちびるに、熱い感触。 不意に落とされたキスに、何故か嫌悪感は無かった。 熱く力強いそれは、照明が元に戻る前に私からあっさりと離れていった。 店員が申し訳ありませんでした、と大きな声で謝っている。 部長は、先ほどと変わらずにグラスを傾ける。 「……部長、は、体温が高い方ですか……?」 側から聞けば、おかしな質問。 だけど、かすかに残るギムレットの香りが私に質問させる。 部長は、しばらく私の目を見つめて意地の悪い笑顔で言った。 「……さぁ。……調べてみる?」 机の下で、部長の小指が私の小指を捕らえた。 暗闇の出来事が本当だったのか、混乱する。 目の前の部長の仕業なのかも、わからない。 でも、知るために もう一度、キスを。
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