崩壊

31/34
前へ
/271ページ
次へ
「ここを下りたら菜々の夢が、ただの夢だったって事が分かるさ。心配するな。幽霊はもう、菜々には憑いていないんだから」 「はい、そう信じます」 向井さんの言葉に小さく頷いた私は、最初の段に足を乗せた。 ここまで何も起こらなかったんだ、きっと大丈夫。 何も起こらないという事を証明するためにも、夢の場所に立とう。 階段を下りて、到着した夢と同じ場所。 空が暗い。建物や外灯の明るさには見覚えがある。 夢の中で見た景色と同じ。 忘れていた記憶が、全く同じ場所に立った事で思い出したのだ。 歩道を行き交う人々、放置自転車、そして……。 外灯に照らされて、こちらに向かって歩いて来る笑う幽霊。 「い、いるっ!!」 どうして?南部君が助けてくれたんじゃなかったの? それとも、大切な物……私の命は絶対に奪われてしまうの!? だったら、南部君は無意味に儀式をしただけじゃない! 「お、おい!菜々!いるのか?幽霊が見えるのか!?」 震える私を、心配してくれる向井さん。 だけど、私にしか見えていないようで。 幽霊は私がいる事に気付いたのか、ニヤリと不気味な笑みを浮かべて、突然走り出したのだ。
/271ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2444人が本棚に入れています
本棚に追加