誘惑

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19時18分を過ぎた。 そこから、まばたきもせずに秒針の動きを見て、その時が訪れた。 19時19分、噂話だと音楽室の前で何かを言う時間だ。 三階の音楽室からだと、歩いて三分もあれば生徒玄関に到着出来るよね。 ……って、私は何を考えてるんだか。 あんな嘘みたいな話を信じてるわけじゃないし、願いなんて叶うはずがない。 もしもそれで願い事が叶うなら、19時19分には皆音楽室の前に押し寄せるよ。 「私はそんなのに頼らずに、勉強するもんね」 独り言を呟きながら教科書を手に取るけど……やっぱりやる気が起こらない。 こういう時に限って、良い暇潰しになる南部君からの電話がないなんて。 いつも、クラスの誰がどうしたとか、自分の事ばかり話すけど、どうしてそんな話を私にするのか。 他に友達がいないのかな。 まあ、息抜きになるから良いんだけどね。 教科書とノートを開いて、シャープペンシルを机の上に置いて、私は読みかけの小説に手を伸ばした。 とにかく机に向かってさえいれば、ママには怒られないから。 勉強なんてこんなものだよね。 気分が乗った時に頑張れば良いんだよ。 なんて考えでいるから、いつまでも成績が良くならないんだろうな。
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