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「しかしありきたりな企画ですよねぇ。夏の心霊スペシャルだなんて」
ろくに舗装もされていない山道をガタゴト揺れながら走るロケバスの中で、カメラマンが機材を点検しつつ苦笑した。
「贅沢いうな。このご時世、仕事があるだけ有り難いと思うんだな」
撮影スケジュールを細かく書き込んだ手帳をチェックしながら俺は釘を刺す。
もっとも内心ではカメラマンの意見に同感なのだが、TV局(クライアント)からの発注で生計を立てるしがない番組制作会社のディレクターとしては、まさかスタッフの前で大っぴらに不満を口にするわけにもいくまい。
今回、うちの会社が受注したのは8月に2時間枠で放映される「恐怖! 真夏の心霊スペシャル」の1パート。
放送時間にしておそらく15分といったところだろう。
「……しかし、本当なんだろうな? その話」
俺は手帳から顔を上げ、AD(アシスタント・ディレクター)の脇谷に質した。
「本当かどうかはともかく、地元でそういう噂があるのは確かっス。就職で東京に出る前から、学校の先輩なんかによく聞かされましたから」
ボソボソした声で脇谷が答える。
まだ若いのに相変わらず覇気のない奴だ。
「鬼灯(ほおずき)村、だったっけ?」
「はい」
当初は近場にある有名な心霊スポット探訪――という安直なネタでお茶を濁そうと考えていた俺に、その「噂」を持ち込んだのは脇谷だった。
「自分の郷里の町から山ひとつ越えた場所に『鬼灯村』という寂れた村があった。名前の通り鬼灯が特産品で、毎年夏になると町で催される鬼灯市にはその村の農家もよく参加していたが、10年ほど前からぱったり足が途絶え、しかも鬼灯村自体が外部との音信を断ってしまった」
――これが「噂」の概要である。
脇谷の話によれば、当時奇妙に思った町の人間が何人か村の様子を見に行ったところ、そのまま行方を断ってしまった。
警察に相談したもののろくに捜査もせず「家出人」として処理されてしまい、そのうち町の住民の間でも「鬼灯村」に関する件は口に出すのも憚られるような雰囲気が出来上がってしまったという。
「ま、似たような都市伝説は日本中あちこちにあるけどな。念のためネットでその手のサイトを検索してみたけど、おまえがいう『鬼灯村』の話は全然見つからなかったぞ」
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