第1章

4/6
前へ
/6ページ
次へ
そこでは渋滞でノロノロ運転を余儀なくされていたトラックや乗用車の運転手が、必死の形相でエンジンを再スタートさせようとしていた。 首都高の向こう側の私鉄の高架線の上では電車が停車し、電車の窓から少しでも風に当たり涼しもうとする乗客が身を乗り出しているのが見える。 更にその向こうの東京湾の方角には、海に向かって真っ逆さまに墜落していく旅客機の姿まで見えていた。 停電の為テレビが見られず、ラジオを点けようとするとこちらは中から煙が上がり使い物にならない。 事態を把握する事が出来ず、オフィスにいる全員がオロオロしながら口々に自分の見解を述べ騒ぎ立てていた。 そこに、先先代の社長の時から会社に在籍し定年の後もパートとして会社に残っている我が社一の最年長者、特攻隊の生き残りとも言われ毎朝10数キロ離れた自宅から自転車通勤している井上の親父さんが現れる。 親父さんは、地下にある緊急時の食料や毛布が備蓄されている倉庫のそのまた奥、半世紀近く前に建造されたこの自社ビルの最深部に備わっている先先代の社長が核戦争に備え作ったと言われる核シェルターから、真空管を使用するラジオと発電機を持って来ていた。 親父さんは二ツの骨董品を繋げスイッチを入れる。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加